ホットエアーシンドローム
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最終更新日:2013/03/31
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20年以上もパラグライダーをやってきて、「一番危ない」、と思うのが、「ホットエアーシンドローム」です。
「ホットエアー シンドローム」という言葉ですが、10年以上前に、海外のメーリングリストで使われていた言葉です。 日本では、これに相当する言葉を知らないので、そのまま使わせて貰いました。日本語に無理矢理直すとしたら何だろうな? 「高性能機依存症候群」とかになるのでしょう。
「ホットエアーシンドローム」は、「高性能機に乗りたいっ!」と思い込んでしまう病気のようなものです。
たとえば周りの友達がソアリングで長時間飛んでいるのに、自分だけ上昇気流をつかみそこねて短時間で着陸してしまっとしましょう。 たいていの場合、これはパイロットの技術(上昇気流を捕まえるテクニック)か、飛び出すタイミングが原因です。 ところが「ホットエアーシンドローム」に罹ってしまうと、全ての原因を「機体性能」に帰結させてしまうのです。 「もっと高性能のパラグライダーに乗っていれば。。。俺だって長時間飛べたのに~」というように思うようになったら、罹患してしまった可能性があります。
「ホットエアーシンドローム」に罹ってしまうと、一生兼目パラグライダー雑誌やホームページを調べて、機体性能に詳しくなります。 そして高性能のグライダーに買い換えます。 けれども高性能のパラグライダーは操縦がシビアなので、腕前が伴っていないと思ったように上昇できないのです。 そして低高度で潰れたときに大けがをしてしまう危険性もあります。 高性能機に買い換えた後でパラグライダーが怖くなって止めてしまうパターンの人が結構いるように思います。
この「ホットエアーシンドローム」、パイロット証をとる前後に罹る人が多いと思います。通っているスクールによっては、講習生の時に罹ってしまう場合もあります。 (私はまさにそうでした。)
高性能機に買い換えたくなったら、次のことを、よく考えてから決断することをおすすめします。
★パラグライダーで飛ぶ目的
そもそもパラグライダーを始めたとき、何がやりたかったのでしょう? 「初心忘るべからず」とよく言いますが、自分が何をやりたくてこの遊びを始めたのか、もう一度よく考えてみましょう。
パラグライダーの競技会に出て優勝する、とか、パラグライダーで日本記録を作る、ということが目的ならば高性能機がぴったしです。 でも、もしかしてあなたの目的が、「大空を楽しく飛んでみたい」 ということでしたら、高性能機は入らないハズです。 中級機で充分楽しめますよ~。 私は7年前のDHV1-2(初・中級機)で飛んでいますので、自信を持っておすすめします。
★高性能の意味 (最小沈下率)
パラグライダーの性能にはいろいろあります。 まず最初に気になるのが最小沈下率です。 これはブレークコードを引いて、ゆっくり飛んでいるときの降下率です。 高性能機だと1.0m/秒位で、中級機だと1.2~1.3m/秒ぐらいでしょう。 毎秒毎秒、0.3mもの違いがでるとしたら、それは大きな違いに思えます。
一緒にソアリングしていて、上級者はあっという間に高度を上げていくなかで、へたくそな人はなかなか上がっていきません。この違いが機体性能から来る、と考えてしまう場合が多いです。 でもちょっと待ってください、せいぜい 0.3m/秒しか違いんがないのです。 サーマルソアリングの1回転が10秒だとすると、機体性能による高度差はせいぜい数mのはずです。
ところが実際には、一回転するうちに数十mの差が付くことも良くあります。 サーマルによる上昇率は1~3m/秒で、大きいときは7m/秒を超えることもあります。 沈下率の差よりも、上昇風の場所による違いのほうが桁違いに大きいのです。 つまり機体性能よりも、「サーマルを的確に捕らえる技術」の方が、遙かに大きいファクターなのです。 もしも貴方がソアリングをやっていて、隣のベテランにあっという間に抜かれたとしたら、それは「高性能機に乗り換える前に、もっと上手くなる」ということに挑戦すべきかもしれまえせん。
条件によっては、サーマルの直径が小さい場合が良くあります。こういうときは、実は中級機の方が小回りが効くので、圧倒的に有利になります。 中級機に乗っているなら、小さくクルクル回して小さいサーマルをポンポン拾って、高く舞い上がるのが楽勝でできます。 上級機を上から見下ろすのは、とっても楽しいですよ~!
★高性能の意味 (高速性能)
高性能機が一番優れているのは、最小沈下率ではなくて、「高速性」です。 つまり早く飛べるのです。向かい風の中を長距離飛ぼうとすると、高速性はとっても重要なファクターになります。
もしも、「遠くへ飛んでいきたい」というのが第一希望なのでしたら、「高性能機」に乗り換えるのもありでしょう。でもその前に、リスクについてもちゃんと理解しておいてください。 早く飛べる、ということはつまり、乱気流などの影響で翼が潰れたとき、「激しい挙動をする」ということになります。 例えば翼の右側がバサッと潰れてしまったとき、中級機であれば沈下率が上がるだけでそのまま飛んでいきます。ところが、上級機では残った翼が前に走るのでスゴイ勢いで旋回に入ります。 パイロットが振り回されながら、グィーンと旋回します。 慌ててブレークを押さえると、直った瞬間に反対側に大きく旋回して、今度は左側の翼がバサリと潰れてしまいます。 右つぶれ→旋回→左潰れ→旋回→また右潰れ。。。 というようになって落ちていく上級機を、何回も見たことがあります。 こういうときに的確に操作することが求められるのが上級機です。
あなたのフライトパターンで、高速性能が本当に必要なのでしょうか?
中級機で、時間をかけて高度を上げてから走りましょう。 急ぐ旅では無いんだし、こっちのパターンの方がお勧めです。
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